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  • 執筆者の写真岩田ひでたか

佐藤鉄太郎と石橋湛山 -NHKスペシャルドラマ『坂の上の雲』再放送記念-

-まことに小さな国が、開化期を迎えようとしている-


9/8(日)NHKスペシャルドラマ『坂の上の雲』再放送決定


思えば20代の頃に司馬遼太郎の小説『坂の上の雲』を読み、三笠公園に行き、そして戦艦三笠のプラモデルとエッチングパーツを購入したものです(結局、プラモデルは作らないまま、今も家のどこかに眠っています笑)。

もちろん2009年から3年間に渡って放送されたNHKスペシャルドラマ『坂の上の雲』も全話視聴。

そのドラマ『坂の上の雲』が9/8(日)より再放送決定との事。何とも嬉しいニュースです。


ちなみに「まことに小さな国が、開化期を迎えようとしている」は小説の書き出しで、ドラマでも最初のナレーションで語られるのだけれど、江戸時代の日本は決して小さな国などではない。

18世紀初頭には江戸の人口は100万人を超えて世界最大の都市になっており、日本全体のGDPも欧州諸国を上回っていたという研究もあるほど。

もちろん、この後、産業革命を経て技術革新を重ね、世界市場に進出した欧州諸国に水をあけられてしまうのだけれど、この江戸時代の蓄積が明治日本の飛躍の素地になった。

また、小説は「(中略)産業といえば農業しか無く、人材といえば300年の間、読書階級であった旧士族しか無かった」と続くのだけれど、何よりもこの人材こそが日本の急速な近代化を可能にしたと言える。

いつの時代も国や社会を豊かにするのは人財なのである。



-皇国ノ興廃此ノ一戦ニ在リ、各員一層奮励努力セヨ-


ところで、『坂の上の雲』で好きな登場人物と言えば、僕は日本海海戦時に第二艦隊参謀だった佐藤鉄太郎。

同じく参謀にも関わらず、奉天会戦で自ら抜刀して指揮してしまうという、乃木大将お気に入りの津野田是重も捨てがたいが笑


日露戦争の海軍参謀というと、まずは真っ先に秋山真之の名が挙がるので、佐藤鉄太郎はその影に隠れがち。

しかし、秋山真之が戦術のスペシャリストだとすれば、佐藤鉄太郎は戦略のスペシャリストと言っていいかもしれない。

ちなみに、佐藤鉄太郎は日本海海戦において、第二艦隊司令長官である上村彦之丞に対して勝敗を分ける重要な進言をしている。


日本海海戦は連合艦隊司令長官、東郷平八郎の指揮による丁字戦法、七段構えの戦法、徹底した訓練による艦砲の精度、下瀬火薬と伊集院信管による砲弾の威力等によって、ロシアのバルチック艦隊を完膚なきまでに叩き、世界の海戦史上に残る日本の一方的勝利で終わったのは周知の通り。

しかしながら、同海戦において、東郷唯一の判断ミスと言われているのが旗艦スワロフの追撃戦である。


日本海海戦では、戦闘戦開始後30分ほどしてスワロフが突然、北に向かって大きく回頭を始める。

この動きに対して、東郷はスワロフ以下バルチック艦隊が戦線を離れ、ウラジオストックに遁走しようとしていると判断。

敵艦隊の頭を抑える為、東郷は一斉回頭を命令。

旗艦三笠に続いて、戦艦を主力とする第一艦隊も一斉回頭するのである。


しかし、この様子を第二艦隊旗艦出雲から見ていた佐藤鉄太郎は、司令長官の上村彦之丞に「スワロフに(我に続けの)旗が揚がってません。あれは舵の故障です」と進言。

上村の「間違いないか」の問いに対し、佐藤の「間違いありません」という迷いのない答えに上村は決断。

東郷の命令に反して「我に続け」の信号旗を出し、第二艦隊にバルチック艦隊への追撃を命じたのである。


巡洋艦中心の第二艦隊が、戦艦中心のバルチック艦隊に突撃するというのは無謀とも言えた。

だが、果たして実際、北に回頭したのはスワロフだけで、その回頭も佐藤の推測通り砲弾を受けて舵を損傷した為(あるいは操舵手が戦死したとも)だったのである。

もし第二艦隊が第一艦隊に続いていたらバルチック艦隊を逃す事になり、同艦隊の殲滅のみが勝利条件であった日本は戦いに敗れていた可能性が大いにあった。

東郷もすぐ判断の間違いに気付き、海域に戻ったところ、ちょうど第一艦隊と第二艦隊でバルチック艦隊を挟み撃ちにする形になり、これがバルチック艦隊殲滅という結果に繋がった。

佐藤鉄太郎の冷静な判断と、猛将と言われた上村彦之丞の決断が日本海海戦の劇的な勝利に大きく貢献したのである。



-日本海軍のイデオローグ、佐藤鉄太郎-


さて、そんな佐藤鉄太郎だが、先ほども述べた通り彼は戦術家というよりは戦略家で、戦後に『帝国国防史論』という論文を発表している。

同論文の中で彼は「大陸における植民地経営は投資コストに見合わない事、たとえ利益を上げたとしても広大な領土を防衛するには莫大な軍事費がかかる事を指摘し、それよりも日本は通商による海洋国家を目指すべきであり、その通商網を守る為に海軍を強化して満蒙は捨てよ」と主張したのである。

帝国主義の時代にあって「植民地を捨てよ」という考えも驚きだが、海洋通商国家のくだりは正に現代のシーレーン防衛に繋がる考えである。


ところで、同時代にあって、奇しくも佐藤鉄太郎と同じ考えを持った民間人がいた。

当時の東洋経済新報主幹で、戦後に内閣総理大臣となる石橋湛山である。

彼もまた、日本が目指すべきは加工貿易国家であり、統治コストのかかる植民地は放棄せよと主張したのである。

加工貿易立国のくだりは、まさに戦後日本の軌跡と一致している。


更に遡ると、明治の思想家、中江兆民がその著書『三酔人経綸問答』の中で、当時の大陸進出を叫ぶ言論に対して立憲制確立、殖産興業、平和外交、専守防衛の国防軍設立を主張。

のちに「小日本主義」とも呼ばれる言説を展開しているのである(余談になるが、令和6年2月28日の代表質問の冒頭で『三酔人経綸問答』について触れさせて頂いた)。



-経済成長のジンテーゼ-


今、日本は少子高齢化や低成長といった問題に直面している。

無論、少子化は日本だけに限らず、アメリカを除く先進諸国が共通して頭を悩ませている問題でもある(敷衍するならば、アメリカの人口増は主に移民によるものである)。

だが、経済については日本はこの約30年間、他の先進諸国と違い、ほとんど成長する事がなかった。

その原因は様々であるが、国も有効な手を打てて来なかった。


もちろん、昨今の物価高に対する対応は言うまでもなく必要であるし、経済成長も重要な課題である。

とはいえ、より大きな視点で見た時、経済成長を金科玉条とする事自体、もしかしたら大きな転換期に迎えているのかもしれない。


勢力拡大をテーゼとした戦前の日本に対して、上記三名がアンチテーゼを示したように、

経済成長をテーゼとした現代の日本に対して、もし仮にアンチテーゼがあるとしたら、それは何であろうか。

あるいは両者を統合、止揚したジンテーゼのようなものはあるのであろうか。



以上、長文・駄文となってしまったが、『坂の上の雲』再放送決定を聞いてあれこれと考えた事をまとめさせて頂いた。

最後まで読んで下さった方、ありがとうございます。

NHKスペシャルドラマ『坂の上の雲』未視聴の方は、ぜひ視聴下さい。

それが結論です笑



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